【ネタバレあり】映画『沈黙‐サイレンス‐』に出てくるいろんな踏絵
【ネタバレが含まれていますので映画未見の方はご注意ください】
映画を何回も見ていて、気づいたことがありました。
出て来る踏絵が全部違うのです。
踏絵にこんなに種類があるなんて映画を見るまで知りませんでした。
下記はいずれも東京国立博物館所蔵の踏絵です。
映画で出てきた踏絵とは色味や摩耗の具合が違いますので悪しからず。
- キチジローが最初に踏んだ踏絵(39:02)
五島でキチジローが家族を裏切って最初に踏んだ踏絵のモチーフは「ピエタ」です。
(映画ではもっと青銅っぽい色ですが)
C0051115 真鍮踏絵ピエタ - 東京国立博物館 画像検索
小説では「主の顔を描いた聖画」とだけ記述されています。 -
イチゾウ・モキチたちが踏んだ踏絵(51:55)
役人に捕まったイチゾウ・モキチたちが踏んだ踏絵のモチーフはロザリオの聖母です。C0064977 真鍮踏絵聖母子像(ロザリオの聖母) - 東京国立博物館 画像検索
小説では「御子をいだいたサンタ・マリアをはめ込んだ板」と記述されています。 - ジュアンたちが踏まなかった踏絵
これは遠目のアングルのためどんな絵かわかりません。 - フェレイラが踏んだ踏絵(120:05)
十字架にかけられたキリストのモチーフです。(映画ではこんなにツルツルしていなかったけれど。)
- ロドリゴが踏んだ踏絵(136:29)
フェレイラに用いられた踏絵とは違うモチーフですが、キリストだけが描かれた踏絵です。
C0090336 板踏絵_キリスト像(エッケ・ホモ) - 東京国立博物館 画像検索小説には
「小波のように木目が走っているうすよごれた灰色の木の板に粗末な銅のメダイユがはめこんであった。それは細い腕をひろげ茨の冠をかぶった基督のみにくい顔だった。」
と書いてあるので、おそらくはフェレイラに用いられた十字架に架けられたキリストの踏絵を小説では想定したのではないかと思うのですが、どうして映画ではロドリゴの踏絵のシーンにこのエッケ・ホモのモチーフを用いたのでしょうか?大きさもだいぶ違います。キリストの表情が最も明確にわかる踏絵だったからでしょうか?エル・グレコのキリストの顔立ちに似ている踏絵だったからでしょうか?
- 岡田三右衛門たちが踏んだ踏絵(148:29)
斜めからのショットなので、確信が持てませんが、「無原罪の聖母」かな?でも映画の踏絵は長方形ですよね。下記のものは楕円なのでなんともわかりません。
上記1~6の踏絵を見ますと、農民には聖母のモチーフを、パードレにはキリストのモチーフを踏ませていることがわかります。
小説でも
「日本のまずしい百姓信徒たちが、なによりもまず聖母を崇拝していることを熟知していたのです。」
と書かれており、それを視覚的に忠実に映像で再現したんですね。
さらに、現存する史料を相当吟味したのでしょう。
すべて違う踏絵を提示することで、逆に奉行所はキリスト教のことを熟知しているなと思わせる効果もありそうです。
踏絵を踏むか踏まないか、という緊迫したシーンでは、踏絵を画面の中央に据えて真上からのショットを見せることで、私たち観客は、まるで自分が踏まされるかのような気持ちになります。
本物の踏絵はどんな感じなんだろうか…。見てみたいです。
2017/12/5~2017/12/25に東京国立博物館で『親指のマリアとキリシタン遺品』という展示があるそうです。(毎年1回は東京国立博物館でキリシタン関係の展示があるみたいです。)
もしチャンスがあったら行ってみたいと思っています。(12月の平日に休みが取れるといいなぁ…と願いつつ。)