【ネタバレあり】あのキリストの顔はもしかして!?・映画『沈黙‐サイレンス‐』を見て・その4
【ネタバレが含まれていますので映画未見の方はご注意ください】
あのキリストの顔はもしかして!?
前回のエントリーで、映画に出てくるキリストの顔のことについて言及し、
詳しく言うと、エル・グレコが1580から1582年にかけて描いたと言われる「聖ヴェロニカのヴェール」で、聖ヴェロニカが持っている布に描かれたキリストの顔らしいです。
と書きました。
「らしい」としたのは、もう一度映画に出てくるキリストとエル・グレコのキリストの顔を見比べたら、エル・グレコの描いたキリストの顔とは微妙に違うことに気づいたのです。
(「そんなこととっくに知ってるよ!」とお思いの方もいらっしゃるとは思いますが、自分の中で「発見した!」と思っちゃったので、僭越ながら書かせて下さい。)
映画の中ではロドリゴの次のシーンにキリストの顔が出てきます。
- マカオで日本行きに向けてキリストの言葉を思い浮かべるシーン(12:34)
※個人的にこのシーンで暗闇に急にキリストの顔が出てきてドキッとしました。 - キチジローにもらった干し魚が塩辛く、喉の渇きを潤すため川で水を飲んでいたら水面に映る自分の顔がキリストに見えたシーン(1:11:00)
※このシーン、役人が横からインしてきてもロドリゴが気付かず、「志村うしろ!うしろ!」の気持ちでした。 - 奉行所の牢屋でキリストの顔を思い浮かべているシーン(1:24:54)
- 踏絵をまさに踏んだシーン(2:17:55)
映画のキャプチャーを貼り付けることはできないので、お手元にDVDがある方はこれらのシーンを見返してみて下さい。
私はパソコンでDVDを再生し、キリストの顔のシーンを一時停止して、横にエル・グレコの画像と並べて見比べました。
もう一度、このエル・グレコのキリストの顔を見てみてください。
El Greco - The Complete Works - The Veil of St Veronica 1580-82 - el-greco-foundation.org
ね、違うでしょ?鼻筋や、特に瞳と目の落ち窪み方とか!
なぜ違うでしょうのか?
もしかして、エル・グレコが描いたキリストの顔は他にもあるのかもしれないと思って探してみました。
El Greco - The Complete Works - St Veronica Holding the Veil c. 1580 - el-greco-foundation.org
これは、同じモチーフの絵ですが、聖ヴェロニカがキリストの顔が描かれた布を持っているバージョンです。
でも、やはり映画に出てくるキリストの顔とは違う…。
なお、他にもエル・グレコの描いたキリストの絵はたくさんあります。
El Greco - The Complete Works - el-greco-foundation.org
上記のサイトにあるTHE COMPLETE WORKSで紹介されている370点の作品を見てみました。
正面を見ているものはこの聖ヴェロニカ関連の2つだけでした。
もう一つあったのですが、これは茨の冠をかぶっていません。
El Greco - The Complete Works - Christ as Saviour 1610-14 - el-greco-foundation.org
なぜ、ちょっとだけ違うのか聖ヴェロニカのキリストの顔をそのまま使わなかったのでしょうか…?
ここで、窪塚洋介さん演じるキチジローを思い出してみましょう。
何度となく出てきては踏絵を踏み、そのたびにロドリゴにコンヒサン(告解)を乞うキチジロー。
キリストの顔とキチジローがストーリーが進む要所要所で交互に出てくると、だんだん、キチジローがキリストに見えてきます。
DVDのプレミアム・エディションの特製ブックレット「『沈黙-サイレンス-』の足跡」内で、町山智浩さんもその点を指摘しています。
確かに、映画の中での窪塚さんはエル・グレコのキリストの顔に似ています。
でも、ここでふと思ったのです。
もしかして逆かも…。エル・グレコのキリストの顔が窪塚さんに似ているのではないか…と。
つまり、窪塚さんの顔立ち、特に窪塚さんの目の印象に近づけるように、エル・グレコのキリストの顔を微妙に加工したのではないか、と思ったのです。
そして、キチジローは最後のシーン以外はずっと髪を結わず、ナチュラルソバージュ?です。
他の村人は鉢巻きをしたり、短髪だったり、しばっているのに。
窪塚さんは一度キチジローのオーディションに落ちながらも、二度目のお誘いがあり、この役を獲得したというエピソードは有名です。
窪塚さんのこの映画関連のインタビューでは必ずと言っていいほど出てくるエピソードです。
そりゃそうです。一度オーディションに落ちたらふつう二度と声がかからないと誰しも思いますもの。インタビューにはうってつけのお話です。
ここで、私はこんな仮説を立てました。
あくまで私の想像も含んだものですので、話半分で読んでくださいね。
- 一度目のオーディションの時は、まだ映画に使う小道具等の美術的モチーフが固まっていなかった。
- その状況の中で、キチジローのオーディションをしたが、窪塚さんは不幸にもガムを噛みながら部屋に入ってしまったこともあり、演技云々より態度が悪いと思われて、ほぼ門前払いとなってしまった。(上記記事内には「窪塚が初めてオーディションに参加したのは約7年前」とある。つまり2010年頃のこと。)
- その後、キチジロー役が決まらずにいた。
- その間にスコセッシ監督の構想の中で、ロドリゴが思い浮かべるキリストの顔をエル・グレコの「聖ヴェロニカのヴェール」にすることにした。(監督がこの絵画を「思いやりに満ちている」と感じたから。)
- さらに、スコセッシ監督は、キチジローを行動としてはユダ的な、でも、常にロドリゴとともにある点ではキリストのような、二重の存在として登場させようと思った。
- そうすると、キチジローはビジュアル的にキリストに似ている必要があった。(ユダのビジュアルは見たことがなくても、キリストのビジュアルはだいたいの人がなんとなく理解しているはずだから?)
- もう一度キチジロー役のオーディションをするため、数人の日本人俳優のビデオを見た時、窪塚さんに目が止まった。ここで、まさにスコセッシ監督は窪塚さんの顔立ちを二度見したのではないでしょうか?!エル・グレコの「聖ヴェロニカのヴェール」のキリストに似ている!と。彼がいたじゃないか!と。
- 窪塚さんに実際に会い、そのピュアな演技と佇まいとそして顔立ちが、目が、キチジローにピッタリとハマり即決したのでは?!(DVDの映像特典「沈黙-サイレンス-」完成までの旅で、スコセッシ監督は窪塚さんのことを「他の作品でよく見ていた。オーディションで見てピンと来たよ。キチジローにぴったりだ。」と言っています。ただ、英語でなんと言っているか聞き取れず…。)
- キチジローが窪塚さんに決まり、映画に差し込むキリストの顔を窪塚さんに近づける加工をした。存在だけでなく、画(え)としても、サブリミナル的にキチジローとキリストを同一視できるように、と。
一つだけ断っておくと、上記の仮説だと、なんだか窪塚さんの顔だけに注目しているように読めるのかもしれませんが、もちろん窪塚さんのキチジローの演技は言うまでもなく素晴らしいと思っています。
さらに、窪塚さんがスコセッシ監督の思い描くキリストに似ていることがキャスティングの一つの理由ならば、それは、この世界中どこを探しても、キチジローを演じることができるのは他の誰でもない窪塚さんしかいないということだと思うのです。
いろんなブログを読んでいると「キチジローがイケメンすぎる。」という意見が散見されます。
確かに小説に出てくるキチジローにイケメンの描写はありません。むしろ臭いとかさんざん言われて醜悪なイメージです。
しかし、この聖ヴェロニカのヴェールのキリストに似ている必要があるとすると、愚直なイメージや顔立ちの俳優さんはそもそも選ばれなかったのではないかと思いました。
DVDのプレミアム・エディションの【特典DVD】NHK BS1スペシャル「巨匠スコセッシ“沈黙"に挑む~よみがえる遠藤周作の世界~」によると、この映画に関する資料を集めたのは、マリアン・バウアー(Marianne Bower)さんです。(この番組では「リサーチャー」となっていますが、IMDbではco-producerとなっています。)
この方ならきっとこの経緯を知っているんだろうなぁ。
TwitterやFacebookで探してみましたが、SNSはされていないようです。
本当はどうなのか聞くことができたらいいのになぁと思いつつ、今は確かめようがありません。